東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)191号 判決
債権者 伊藤兼吉 外十名
債務者 帝国石油株式会社
一、保証 無保証
二、主 文
債務者が昭和二十三年十二月二日附債権者等に対し為した解雇の意思表示はその効力を停止する。
訴訟費用は債務者の負担とする。
三、事 実
債権者等代理人は債務者は債権者等が、別紙目録第一表記載の職場で業務を行うことを妨害してはならないし且つ債権者等に対し賃金の支払その他の労働条件につき他の従業員と差別してはならない趣旨の判決を求め、その理由として、債務者は石油採掘採油等を目的とする株式会社、債権者等は何れも同会社(以下会社と称する)秋田鉱業所管内に勤務する従業員であつて、各人の勤務地区、職場、職名、職種、地位、及び収入は別紙第一表記載の通りであるが、会社は昭和二十三年十二月二日債権者等を含む秋田鉱業所管内従業員約七百名に対し一方的に解雇の意思表示をなした。しかしながら債権者等は会社従業員を以て組織されている帝国石油労働組合(以下組合と称する)の組合員であつて、右解雇の意思表示は債権者等がその組合行為及び争議行為をしたことの故を以て行われたものであり、且つ労働委員会の同意がないから、右は労働組合法第十一条及び労働関係調整法第四十条(何れも現行改正以前のもの、以下これに同じ)に違反して無効である。もと会社と組合との間には昭和二十二年八月十一日労働協約が締結され、同協約中に於て、組合員の人事は人事委員会(別に協定された人事委員会規約により会社側及び組合側同数の委員から成る)で決定すること、右協約の有効期間は六ケ月であるが満期後所謂自動延長をすること等が定められていたところ、会社はその従業員の整理解雇を企てるやこれを一方的に強行する為昭和二十三年春以来その改定を申入れ、同年九月二十二日組合に対し本協定は当事者がこれを一方的に破棄し得るものであるとの見解の下に、これが解除の通告をなし、又屡々組合役員及び組合運動に活発な者は馘首の対象にするという威圧的宣言を繰返して組合の分裂を策し、更に同年十一月十七日組合の前中央闘争委員長、中央副闘争委員長書記長等との間に極祕裡に債務者会社全職員中二千十六名の人員整理に関する覚書を交換すると共に双方これに仮調印をなした。以上の会社の動きに対し組合はその間会社との間に交渉と闘争を重ね、同年四月以後は時々二十四時間又は四十八時間の罷業を行い、特に六月初旬以来強く右人員整理に反対し続けて来たのであつて、前記覚書は組合の意思にそわないので十一月二十六日から四日間柏崎市で中央大会を開いて右仮調印を否決し、新たにこの点につき団体交渉をする為に信越地方五、秋田地方四、山形地方三、北海道地方、東京地方各二(右各地に夫々会社の営業所が存すると共に組合の地方本部がある)の交渉委員を選出し、右委員を以て組織する交渉団に会社と交渉する権限及び総員の三分の二以上の一致ある條件を以て会社と協定を締結し得る権限を与えることを決議した。しかるに会社はこのことを知りながら翌十二月二日直接各人に宛てて前記解雇の通知をなしたのが本件解雇に至るまでの経過である。而して債権者等は別紙第二表の通り何れも組合の役員として右の期間を通じ夫々の地位に応じて熱心に上記組合活動を分担従事したのである。ここに於て会社のなした前記解雇を見るに会社は表面上は企業整備の為の人員整理だといつているけれども、真実は組合活動に熱心な者、役員である者、役員であつた者を集中的に選んで馘首したものであつて、特に債権者等に対しては右のような組合内の地位及び行動に着目し、同人等を社外に放逐すると共に、このような者を放逐することによつて他の組合員を威圧し、以て組合の活動を弱化しようとしたものに他ならないのである。このことは秋田県地方労働委員会が昭和二十四年三月八日本件債権者十一名に対する解雇は、労働組合法第十一条並に労働関係調整法第四十条に違反する疑濃厚であると決議し、更に同年四月二十六日の決議に基き同年六月十八日公訴請求を為したことからも明白である。このようなわけであるから債権者等は本件解雇は前記各法条に違反することを原因として債務者に対し前記解雇無効確認の本訴を提起しようとしてその準備中であるが、その勝訴判決の確定するまで右解雇が有効であるのと同様の状態が存続し、従つて債権者等がその職場でその業務を行うことができないのと、その簡単に債権者等の生活手段が絶たれて大きい脅威を受けるばかりでなく、債権者等の利益を代表する組合の行動も回復し得ず変更を受けることになるし、仮に右業務は許されても労働条件に於て他の従業員と差別されるとやはり右のような結果は避けられないから、このような著しい損害を避ける為の仮の地位を定める仮処分として前記のような判決を求める次第である、と陳述し、なお、債務者の主張に対し会社と前記交渉団団長の間に昭和二十三年十二月六日秋田鉱業所管内の組合員の解雇人員数として六百九十一名を認める旨の条項を含む人員整理に関する協定書が取交されたことはあるが、右交渉委員中には山形地方及び秋田地方選出の計七名の委員が加わつていなかつたから交渉団として会社と協定をなし得る為の定数を欠き、従つて右協定書は効力を生じ得ないのである。しかしながら仮に右のような協定がなされたものと見られるとしても、右協定は単に整理人員数を取極めたものに過ぎないのであつて、組合がこれによつて具体的に債権者等の解雇を承認したものではない。又Eを除く債権者等が昭和二十四年二月中会社から所謂退職金を受領したことは認めるが、右は会社より給料の支払がないために秋田地方労働委員会の了解の下に、将来その返還債務と給料とを差引計算するつもりで受取つたものであるからその受領行為によつて解雇を承諾したものとすることのできないことは当然であると陳述した。(疎明省略)
債務者代理人は「債権者等の本件仮処分申請を却下する」との判決を求め、答弁として債権者主張事実中会社の目的、債権者等の解雇前の勤務地区、職場、職名、職種、地位及び収入が債権者の主張の通りであること、会社が昭和二十三年十二月二日債権者を含む従業員に対し一方的に解雇の意思表示をしたこと、債権者等が解雇前帝国石油労働組合の組合員であつたこと、会社と組合の間に昭和二十二年八月十一日組合員に対する人事につき債権者主張のような内容を含む労働協約が締結されたが、会社は昭和二十三年春以来その改定を申入れ、同年九月二十二日一方的にこれを解除する通告をなしたこと、会社がその従業員の整理解雇を企て、同年十一月十七日組合の当時の中央闘争委員長等との間に二千十六名の人員整理に関する覚書を交換して双方がこれに仮調印をしたこと、会社の協約協定及び人員整理に関する動きに対し組合が交渉と闘争を重ね、同年四月以後時々二十四時間又は四十八時間の罷業を行い、特に六月初旬以来右仮調印まで人員整理に反対し続けて来たが同年十一月二十六日から四日間柏崎市で中央大会を開いて右仮調印を否決し、右問題につき更に会社と交渉する為交渉委員を選出したこと、並に秋田県地方労働委員会が債権者十一名に対する本件解雇を労働組合法第十一条並に労働関係調整法第四十条に違反する疑ありと決議したことはこれを認める。然し右交渉委員が三分の二以上の多数決を以てはじめて会社と協定を締結し得る権限を与えられていたこと、及び債権者等の組合に於ける地位、行動については知らない。その余の事実は全部これを否認する。経営権は本来債務者会社に帰属しているのであつて、その経営権の行使として会社はその企業再建整備の為に債権者等を含む人員解雇を行つたものであるから、その解雇はもとより有効であり、しかも右人員整理の被解雇者を選定するに当つては(一)休職者及び長期欠勤者(事情を斟酌し得る者を除く)(二)出勤の常でない者(三)業務怠慢の者(四)技能劣等の者(五)業務成績の挙らない者(六)事業経営上不要と認める者(七)昭和十八年六月以降入社の者(但し優秀者を除く)(八)数え年五十四才以上の者(但し優秀者を除く)(九)秩序を乱す者(一〇)行動不良な者という解雇基準を定めこれに従つて選衡したところ、債権者A、B、E、Gは右基準中(五)(六)、Cは(五)(一〇)、Dは(五)(六)(一〇)、Fは(三)(七)、H、Iは(七)(九)、Jは(五)(七)、Kは(七)の事由に該当したので夫々解雇したものであるから、同人等の解雇は勿論正当であり、労働組合法及び労働関係調整法に違反するものではない。仮に右解雇が之等法条に抵触するものとしても、同条違反の行為は単に労働行政上の見地から処罰されるに止り、私法上の無効を来すものではない。仮に然らずとするも、労働組合が所属組合員の解雇に承認をしたときは、もはや組合員個人はその解雇の効力を争い得なくなることは労働法の本質上当然のことであるが、帝国石油労働組合の交渉団団長佐々木正縁は昭和二十三年十二月六日被告会社に対し、秋田鉱業所管内六九一名を含む会社の人員整理案及び会社がそれまでに行つた解雇を正式に承諾し、其の旨の協定書の取交があつたから、これによつて債権者等に対する解雇の効力も確定した。もつとも右交渉団中には秋田地方選出の委員が一人も含まれていなかつたから、会社と組合の間の右協定の効果が秋田地方の組合員を拘束しないという疑問があるかもしれないか、更に組合秋田地方が、翌二十四年一月二十日から二十七日までの間、その傘下の支部毎に悉く右協定を確認したから、これによつて右の疑点も解消したわけである。況んやEを除く爾余の債権者等は個人としても昭和二十四年二月中に会社から退職金を受領して解雇を承認したのであるから、今更その当否を主張する資格はない。このような次第で債権者は何れも有効に解雇されたものであるから、解雇が無効であることを前提とする本件仮処分申請は理由がないものである。と陳述した。(疎明省略)
四、理 由
債権者は本件に於て債務者会社が債権者に対してなした解雇が労働組合法第十一条及び労働関係調整法第四十条に違反しているから無効であると主張し、これに基いて仮処分を求めているのであり、債務者はこれを否認し、仮にそうであるとしてもその後債権者等の所属組合は債務者会社の解雇案を承認し、且つ債権者Eを除くその余の債権者は悉く退職金を受領して夫々解雇の承諾をした旨抗争するのであるから、以下に一、右法条違反の効果の法律的解釈、二、本件に於ける右法条違反の事実の有無、三、その後に於ける解雇の承認の効果、四、仮処分の必要性の有無、の順序で判断する。
一、労働組合法第十一条及び労働関係調整法第四十条(何れも現行改正以前のもの)違反効果
債務者は経営権は権務者会社に帰属するから、その経営権の行使として為した本件解雇は非議される理由はないと主張しているが、経営権が経営者に全面的に属し、解雇等に付て労働者側に何等の参加権がない場合に於ても、労働組合法第十一条や労働関係調整法第四十条は適用せられ、経営者側は不当労働行為を製肘すべきことは当然であるから、この点に関する債務者の主張は採用されない。又労働組合法第十一条並に労働関係調整法第四十条の法意は、共に勤労者の団結権及び団体行動権を直接に保障するものに他ならず、勤労者の有するこれらの権利は公共の福祉に反しない限り侵されることのないものであるから、これを保障する為に存する右両法条に違反してなされた行為は単に事実行動としての面から処罰されるばかりでなく、法律行為としての面からもその効力を生ずることは許されないものといわなければならない。よつてこの点に関する債務者の前記主張もまた採用することができない。
二、本件に於ける右法条違反の事実の有無
債務者会社の目的、債権者等の解雇前の勤務地区、職場、職名、職権、地位、及び収入が債権者の主張の通りであること、会社が昭和二十三年十二月二日債権者等を含む従業員に対し一方的に解雇の意思表示をしたこと、及び債権者等がそれまで帝国石油労働組合員であつたことは当事者間に争がない。而して成立に争のない甲第十七号証の一ないし十一、証人a(第二回)の証言によつて成立を認め得る甲第十八号証、証人bの証言により成立を認め得る乙第五十五号証の三、七、十、二十四、証人c、a(第一、二回)の各証言、債権者A、E各本人訊問の結果によれば、債権者等は夫々別紙第二表の如き組合役員たるの地位にあつて、同表掲記の如き熱心なる組合活動を為したものであることが一応認定出来るし、特別の反証なき限り右活動は正当なものであると推定し得るので、債権者等に対する本件解雇は債権者等が組合員であり且組合活動をしたことを理由とするものであるかどうか、即ち先ず労働組合法第十一条の違反ありや否やを判断する。而して凡そ労働組合法第十一条違反の如き所謂使用者の不当労働行為の存在は、労働者側に於てこれを立証する外はないのであるが、その方法は使用者が解雇行為の理由として主張する事実と矛盾する事実を立証することによつて或る程度目的を達することが出来る。特に疎明の範囲に於ては、例えば本件の如く使用者が経営方策上解雇の必然であることを主張するときは、労働者側は別の解決方法の立ち得ることを立証すべく、使用者が解雇基準、例えば業務怠慢、成績不良、秩序紊乱等十項なるものを掲げこれに従つて労働者を解雇したといつている場合には、労働者側は、被解雇者中に組合役員又は著しい組合活動をした者が不自然に多数含まれていること、解雇が顕著な組合活動の直後に行われたこと、使用者の被解雇者に対する評価が短期間内に大幅に変化していること等を一般的に立証する外、被解雇者各個人に付ては、使用者がその者にふさわしい仕事を与えなかつたこと、使用者がその者を既に長期間使用しており、仕事の経験が長いこと、その者の従来の昇給率が他に較べて高いこと、使用者がこれらの者に褒賞を与え又特別に重用した事例があること、その者の行動が秩序紊乱ではなく労働者として当然許容さるべき組合行為の範囲内であること等を夫々立証する如きである。よつて本件につきこれをみるに、
第一に債務者は債権者等に対する解雇が会社の企業再建整備の為に必要な二千十六名の人員整理の一環に他ならないと主張し、成立に争のない甲第十四号証及び乙第二号証を対照すれば、会社の企業再建整理案は現下の企業者の立場からみて一応妥当であることが認められ、右甲号証によれば、これに対して組合の提案する方策の基礎となつている考えは現実の日本の地位、及び経済事情の逆転を前提とするものであることが認められるから、債権者はこの点に於て債務者の主張を覆し得たとはいえない。しかしながら会社が右人員整理の機会を利用して債権者等を不当に整理人員に含ませて解雇することがあり得るから、更にこの点に関する調査を進める必要がある。
第二に債務者は整理の対象となる者を選定するに当つては予め解雇基準を定め、これに従つて行つたものであつて、特に組合関係者を対象としたものでないというけれども、解雇前の会社従業員の数は前記甲第十四号証及び乙第二号証によれば九千二百余名であるから、総従業員数に対する解雇者数の割合は最高二割を僅か超過するのであるが、同じく総員対被解雇者の割合を組合員だけについてみるに証人a(第一回)の証言及び債権者A本人訊問の結果により成立を認め得る乙第七号証の一、二によれば秋田地方闘争本部の役員については右三十八名対二十五名であつて六割五分を超え、秋田支部については二十七名対九名であつて三割三分であり、以下八橋、由利、旭川、豊川、八森各支部共何れも三割を超過していることが認められ、これに反する疎明はない。
第三に会社が組合との間に協約改定及び人員整理をめぐつて半ケ年に亘り交渉と闘争を続けて来て、しかも会社の整理案が昭和二十三年十一月二十六日組合の全国大会で否決された直後たる同年十二月二日に前記解雇をなしたことは当事者間に争ないところである。
第四に前記甲号十七号証の一ないし十一、証人d(第二回)、eの証言によつて成立を認め得る乙第五十三号証の二ないし十二、証人d、a(共に第二回)、e、bの各証言及び債権者A本人訊問の結果によれば、会社は昭和二十三年六月初本社からの通牒により、各職場から昇給の標準とする為各人の成績を報告させて原簿を作成し、これをその後に至り秋田地方労働委員会の要求により提出したが、右原簿には各人の成績が「A」ないし「E」の五段階に区分記載してあること、右成績の評価は原簿作成後数ケ月の間に訂正されているものがかなりあること、及び会社は債権者等に対する前記解雇に当りその主張する解雇基準の他に従業員各人の勤怠技能を調査し、これをやはり「A」ないし「E」の五段階に区分して被解雇者選定の資料にしたが、この評価は目的が違うとはいえ前記原簿の評価と著しく喰い違つているものが多いことが認められる。
而して最後に債権者各人についての解雇事由の有無を考察してみると、債権者等に対する解雇理由は一般的な解雇基準一ないし十の内夫々債務者主張の基準項に基くものとし、且つ真実にこれに該当すると云う乙第五十三号証の一ないし十二、乙第五十五号証の一ないし二十七の記載や証人b、d(二回)の各証言等があるが、前記の甲第十七号証の一ないし十一、同第十八号証、証人a(二回)A、Eの各証言によれば、夫々基準事項に該当するものとは直に採り難く、却つて夫々解雇事項と矛盾する前示反証事項が疎明出来るのであつて、而も秋田県地方労働委員会が三箇月余に亘り殆んど連日連夜調査研究を遂げた上、六百余名の提訴者中本件債権者十一名に付ては、労働組合法第十一条並労働関係調整法第四十条違反の疑濃厚であるとして秋田地方検察庁へ公訴請求を為したこと(このことは成立に争ない甲第二十六号証、成立を認め得る甲第二十五号証により明白である)や前段総括的に認定した第二ないし第四の事由を綜合すれば、他に特段の反証のない限りは、本件債権者十一名の解雇は一応債権者等が組合員であることないし、組合活動を為したことを実質上の理由とするものであると認めるの外なく、従つて労働組合法第十一条に違反するものと云うべきである。然らば前認定の如く同法条に違反する本件解雇は法律上効力を生じないものと云うの外はない。(本件解雇が労働関係調整法第四十条にも違反するか否かの点は其の判断の要がないので省略する。)
三、その後に於ける解雇の合意の効果
債務者は労働組合に於て組合員解雇について承認がなされれば組合員個人は解雇の効力を争い得なくなるとし、会社が前記解雇の意思表示をして後、交渉団が秋田鉱業所管内の組合員の解雇を含む会社の整理案及びそれまでの解雇を承諾する旨の協定をなし、更に債権者等の所属組合秋田地方がその傘下支部に右協定を確認したから債権者等はもはや右解雇の無効を主張し得ないというけれども、組合の為に行動した者が自己の解雇の無効を前記法条に基いて争う権利は組合と会社の合意を以てしても奪うことができないことは当然である。
最後にEを除く債権者が昭和二十四年二月中会社から退職金を受領したことは当事者側に争がなく、債務者は右事実を以て右債権者が本件解雇を承認したものと主張し、退職金の受領は特段の事情のない限り退職の承諾と解すべきものであるが、成立に争のない甲第十九号証及び証人a(第二回)の証言によれば、右は債権者等が会社と闘争中生活の資に窮し、特に秋田地方労働委員会事務局長に対し右退職金の受領が前記法条違反の解雇の効果に影響を及ぼさないか否かにつき見解を問合せ、その了解の下に生活資金として、将来会社から支払われるべき給料と右退職金返還債務と相殺するつもりでこれを受領したものであることが認められ、これに反する疎明はない。而してこのような場合は前記特段の事情に該当し右退職金受領は解雇の承認と認めるに由ないものである。
従つて上記債務者の抗弁は何れも理由がない。
四、仮処分の必要性の有無
解雇が一応無効であると認められるに拘らず、債権者等が本案判決確定に至る迄賃金の支払を受けられず、又事業所の出入を禁ぜられることは労働者として耐えられない苦痛であり、且つ一旦離職すると他に容易に就職し難い今日の社会情勢に於ては、その労働者並家族にとつて死活の問題となる。証人A、Eの各証言によるも債権者等が窮乏生活に苦しんでいることを疎明し得る。これに反し債務者会社は日本に於ける石油の大部分を生産する大会社であることは証人eの証言によるも明白であるが、同会社に於て多数解雇者の内僅か債権者等十一名の者を仮に従前の地位に復し、之に賃金を支給することは大なる負担であると称し難く、又債権者等十一名が職場に復帰することによつて、秩序紊乱を来すおそれありとの点に付ても、証人bの証言その他の証拠によるも未だ疎明し難いところである。もとより債権者等の仮りの復職によつて債務者会社が或程度の損害を被ることはこれを予想し得るが、この損害は前示債権者等の職員たるの地位を回復し得ない損害に比べれば問題とするに足らないものと云わねばならない。かような双方の事情を衡量しても、本件に於ては債権者の本件解雇の効力を仮に停止し、以て債権者の身分を従前のそれに復する仮の地位を定める仮処分を必要とするものと認定する。
尤も債権者は賃金支払、差別待遇禁止等具体的な仮処分を求めているがこれ等は法律上、本件解雇の効力を停止することによつて債権者等に当然享有し得べき権能であるし、債務者会社も本判決が適法に取消される迄はこれに服すべきは当然のことであり、又仮の地位とは云え或る期間は継続する法律関係であるから、当事者双方共信義誠実の原則によつて常に結びつかねばならぬことを考慮すれば、債権者等申請の如き従業員たる地位に基く具体的請求権は債務者の任意の履行に一応俟つべきである。その強制執行の如きは本仮処分命令に基く任意の履行を肯じない場合に始めて断行せらるべきものと考えられる。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 柳川真佐夫 中島一郎 高島良一)
別紙第一表
氏名
地区
職場
職名
職種
地位
総収入(円)
A
土崎
土崎鉄工場
現業社員
施盤工
一級
三、二三〇
B
〃
〃
〃
火造工
〃
三、二五一
C
八橋
組合事務所
技術社員
一、八九一
D
〃
掘鑿採油
現業社員鉱手
地区委員長
番長
三、五五六
E
〃
電気係
技術社員
電気事務
係長
二、三四二
F
〃
掘鑿係
〃
普通
二、七二五
G
〃
掘鑿採油
現業社員鉱手
皮替等
番長
三、三三二
H
八森
鉱手
鉱手
バワー当番
係員
五、五〇八
I
〃
〃
〃
採油
〃
五、二八八
J
〃
〃
技術社員
〃
〃
三、八九五
K
由利
組合
経理手
専任
書記長
三、三一四
別紙第二表
氏名
入社
昭和
年月
昭和二十三年十二月まで勤続年ヶ月
組合関係
現役職名
任命日
昭和年月
組合活動
A
11.7
12.4
支部闘争委員
二一、四
組合発足以来幹部を歴任し青年らしい熱情を以て常に組合活動を推進して来た。
B
11.7
12.4
前職場闘争委員
組合運動に積極的に協力し、特に会社側との交渉に当り折衝した。
C
18.4
5.8
地方青年部副部長
二三、四
昭和二十二年二月から青年部地区委員、支部文化部医員として青年層の指導、文化活動をなし、その指導的役割を果し、翌二十三年四月地方青年部副部長に選出されて活躍した。
D
4.3
19.8
八橋支部闘争委員
地方闘争委員
二三、一〇
二三、三
昭和二十一年二月組合結成以来支部常任委員八橋地区委員長、地方闘争委員に選出されて今日に至り、この間支部の中堅幹部として地味ではあるが正しい理論を以て組合員を指導し信望が厚かつた。現在作業免除者である。
E
17.1
6.11
中闘執行委員
中闘経営対策部長
二三、六
二三、七
組合結成当時から支部青年部長、文化部長、支部常任委員を経て、昭和二十三年三月改選に当り地方副委員長に当選し、六月上記役職を兼務するようになつた。同人の正確な理論的説明は大衆の信望を集め又会社との交渉の際の理論的追及は会社幹部の脅威であつた。現在作業免除者である。
F
19.10
4.2
昭和二十二年九月支部常任委員として選出され、その後地方青年部副部長、中央代議員、中闘委員を歴任して積極的に活躍し、二十三年九月中闘委員を辞してから現場の啓蒙活動をなして現在に至る。
G
4.3
19.8
会計監査地区委員
二三、一〇
二三、一〇
昭和二十一年二月地区委員に選出され、その後支部常任委員、会計監査、地闘委員を歴任した。
H
21.2
2.9
中央代議員
地方拡大闘争委員
支部経対部長
支部幹事
二三、三
二三、四
二八、八
二三、三
支部執行委員、幹事長(副支部長)、地方闘争委員、地方代議員等を兼ね、支部枢要の指導的地位にある。
I
21.2
2.9
中央代議員
地方拡大闘争委員
支部青年部長
支部幹事
二三、一〇
二三、四
二三、一〇
二三、三
支部青年副部長等上記の役を兼ねて組合執行部の重要一員であり、又青年部の指導者である。
J
18.4
5.8
支部青年部幹事及び委員
二三、三
青年部地方代議員であり、鉱手区を基盤とする組合青年の代表であつて、組合理論に最も優れている。
K
20.11
3.0
由利支部常任委員
二三、二
昭和二十三年二月以来支部書記長として組合員を啓発し、常に先頭に立つて奮闘した。なお同日以後作業免除者である。
(注 旧労働組合法第十一条に該当する規定は現行労働組合法では第七条である)